天使の甘言

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「だから、幼馴染だよね? 好物とか、好きな人とか、理想のタイプとか知ってる、かな、なんて……」 恥じらうな。乙女全開のキミに、さらに惚れてしまったじゃないか。 好きな食べ物だって? 知ってる。母ちゃん言ってた。 エビフライだってさ。回転寿司でもエビばっか食うんだって。 好きな人は両親だ。 理想のタイプは、まじめ、穏やか、優しい。 全部、君に当てはまるよ。 おれは泣きたくなった。あれ? この仕打ち、酷いよね? 彼女は首をかしげておれを見つめている。手を前で合わせておねだりのポーズをしている。 見つめられてるんだけど、その向こうの大間知涼を見ている彼女の瞳。 いいぜ。教える。 「エビフライ……」 乾いた口がぱくぱく開く。 「え?」 「エビフライだって言ってんだろ!!」 マクドナルド前でかわゆい女の子にまくし立てるおれはクソ野郎だろう。 周りからどんな風に見えるだろう? 滑稽か? 軽蔑するか? 「夏原君? どうしたの?」 「好きな人は両親だって……」 こんな時に饒舌。ホント、呆れる。 彼女を見ると、なんとぽっと頬を染めている。恋する乙女か! 「理想のタイプはまんま……お前だ!!!!!  ばーーーーーーーーーか!!!」 おれは逃げ出した。 言い終えたか、言い終える前かは忘れた。全速力で、卓球部で走りまわされた脚力がいま、力を発揮した。 惨めだ! 惨めだ!! 惨めだ!!! 『ダメ人間だ』 「そうだ、はぁ、だ、ダメ人間……はぁ、ゲホ、ゲホ!!」 おれは知らぬ間に川原まで来た。昔から辛いときはここでベソかいてた。 ここは東屋が近くにあって、そこは小さい頃からのおれの秘密基地じゃないけど、自室の次に休まるところだ。川原の近くということもあってかやけに涼しい風が通る。 だのにっ!! 黒くうねる人影が二つ。外灯にちらちらと映し出される男女。 「あ、だめ! 人がきちゃうよ、健ちゃん」 「もうだめだ!! 俺は辛抱溜まらん!! ここでしよう!!」 「あん!! ホテルまで我慢してよ!!」 「エロいお前が悪い!!!」 おっぱじめやがった! 若い男女が獣のように。 ……おれがよく寝ていたベンチで欲をさらけ出して、メロンパン齧ってた机で抱き合って! なに、はしたねえことしてんだよお!!
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