天使の甘言

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人間は獣だ、理性を失えば獣同然だ!! 俺は側溝に唾を吐きかけ、電柱にもたれかかった。 携帯で時間を確認する。 23時。 母ちゃんに怒られるな。 今日に限って月が明るい。なんだよ。カップルを祝福してんのか? おれをコケにしてんのか? 何に対しても怒りが沸く。 制服姿ではこのままじゃ補導されかねないな。 おれは自宅に向かった。 それは人嫌いで、暗がりが苦手なおれの性なのだ。行き場は自然と自宅に絞られる。 「恭平! 何時だと思ってんの?母ちゃん心配したじゃない!!」 「他の奴らは11時越えても遊んでいるんだぜ?」 「けど、あんた、門限ないのにいつも7時には帰ってくるじゃない」 「うるさい」 おれは母ちゃんの手作りとんかつをむしゃむしゃ食って、風呂はいって、歯を磨いて、布団に飛び込んだ。 欝だ。これは欝だ。 『残念で仕方ないよね? 好きだったでしょう?』 「誰があんなチビ……」 『彼女の唇、潤んだ目、恥じらいを見て可愛いと思ったのはどこの誰? 惚れてしまったお馬鹿さんは?』 幻聴か? 自身に問いかけてるのか? 最近の俺は頭がおかしいのか? ぼっちか? 一人ぼっちすぎて、こんな幻聴まで聞こえるようになったのか? 『ダメだね。素直に吐きなさい』 「ゲロ吐きそう」 『堪えて!』 「うん……」 おれはもう、死んでしまいたい衝動に駆られてしまっている。 死んだらこんな思いせずに……。 『母ちゃん泣くよ?』 「泣くよね」 『父ちゃんも』 「泣いちゃう、ああ見えて、涙腺もろい」 この幻聴はなんだか、おれのことをわかってくれる気がする。 まあ、おれの頭が造り出した幻聴なんだから、都合よくできているのかもしれない。 『幻聴ではないよ、だってほら。もうあなたの目の前にいる』
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