天使の甘言

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「いま、一瞬見えた気がした……」 『わたしのこと? 可愛かったでしょう?』 「……いや、幻なんだ。これ以上錯覚起こすと日常生活に支障が出そうだ。自分が怖い」 頭がどうかしているおれだが、幻聴相手だけどすごくまともに話せている。 クラスメイトとのさりげない会話ができないおれには、どこの店に行くにも誰とも目を合わせないおれにとっては、進歩? だと思う。けど、精神病だとしたなら明らかに退化している。 『楽しいことしないの?』 「具体的に例を挙げていってくれ」 『深夜徘徊しましょう!』 幻聴は声高々におっしゃる。 深夜徘徊? 何のために? 楽しいのか? 鼻で笑ってやる。 「それ楽しいか? っていうか、補導されかねないよ」 『行ってみてからのお楽しみだよ』 「今から?」 時刻は深夜2時、丑三つ時。 こんな時間に抜け出すなんてしたことがないし、両親は許さないだろう。 「なんかどきどきするな? こう、悪いことしてるからか? いや、これは果たして悪いことか?」 『明日は休日でしょう? 寝坊しても大丈夫だよねー』 「ふつうに学校だよ」 こそこそと物音を立てずにパジャマの上から黒いパーカーを羽織る。 下はジャージを履き、ラフな格好だ。
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