天使の甘言

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少年はメガネをかけていたようで、そのメガネは草むらのかげに転がっていた。 おれはそれを拾い上げると少年の肩をたたいた。 びくっと肩を震わし、少年は顔を上げた。 驚くほど美形に見えた。いや、長いまつげに大きな瞳、白い肌、キメ細やかなさらさらした髪。明らかにイケメンの部類。 丸い縁の分厚いレンズのメガネがそれを台無しにしているように見えた。 実際そうだろう。 「これ……」 メガネを差し出す。 「あ、ありがとうございます!」 少年はおれの存在に気づいてなかったからか、驚きながらうわづった声を出した。 なるほど、おどおどしている。 彼は性格的に問題があるのかもしれない。 ひっきりなしにメガネをくいっとあげている。 「あ、あの、僕、帰りますね……?」 「……」 おれはどうしてか、声が出なかった。 声かけてどうすればいいんだ? 『慰める』 出来るか? 慰めてどうする? 『仲良くなればいい』 それで、どうすんだ? 『不良から守ってやるの』 おれは無理だ。 フリーズするおれに彼は変な目で見始めた。 「帰ります! で、では!」 彼は立ち上がり、ぺこりと礼をした。 「ま、待ってよ」 喉から蚊の鳴くようなか細い声が出た。 いけるか? 生唾を飲み込み、言葉を吐く。 「カツアゲされてんのか?」 少しカタコトになってしまった。
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