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「そ、そんなあ……」
「それにさあ、南門から正面玄関までって、往復5分はかかるぜ? 面倒だし、他校の生徒がのこのこ入る場所じゃないだろう?」
おれは冷や汗を背中に思いっきり掻きながら弁解する。
「学校内じゃ、おれは頼れないんだ……」
そう言うと彼は項垂れたが、次の瞬間にはきらきらした笑顔をおれにぶちまけた。
「わかりました! じゃあ、南門までで!」
おれは大きく頷いた。
歩き始めるおれたち二人。普段は中坊の通らない裏道を通り抜け、駅まで目指すのだが……。
くそ、女子中学生に取り囲まれてしまった。
おれは焦った、脇道から次々と合流してきやがる!
お前らはなんだ? 枝分かれした川か? そして、この道は一流河川か?
否、これは道だ。
くそ、おれはこの状況が大嫌いだ。こんなときに不良に絡まれる。
足早なおれにはこの歩幅が苦痛だ!
「ぬぅぅ……」
「え? どうしたんです? ちょ、夏原さん?」
「気が動転してるかもしれない」
「鼻から血が出てますよ!?」
水野君はおれの鼻にティッシュを詰め込んでくれた。ずいぶん強引だったがまあ嬉しかった。
「女子中学生見て興奮するのはわかります! あの子、僕大好きなんですよね!」
指差すほうを見る。ほうほう、なるほど。
臀部まで伸びた艶やかな黒髪、きりっとした瞳、手には文庫本、白い肌。
美少女。水野(メガネなし)なら、互角か? いや、この女はもう一ランク上だ。
目が合う。あまりにも見ていたので気づかれたようだ。横目でおれたちを一瞥し、優雅に歩いていってしまった。その姿はどこかのお姫様を連想させる。
そして、おれとは縁のない方だな。
水野の腕をぐいっと下げ、おれは彼を諭すことにした。
「いいかい? 君はカッコいいかもしれない。だけど、差がありすぎる。諦めろ、あの子は国民美少女コンテストの優勝者さえも抜いてしまうかもしれない」
水野は諦めていないようだった。
「僕はあの子の為にここにしがみついてるといっても過言ではありません。彼女は言いました! 『君は強いね』と、男としてこの世に生まれ、これ以上の褒め言葉もらったことがありません!」
つい、6時間ほど前に死ぬといっていたヤツなのに彼女を見ると、別人のように変貌した。
結局、彼女のすばらしさを延々と語り聞かされる羽目になってしまった。
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