天使の甘言

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お、思い出すだけで。 「胸が痛いなんだろう、まさか……」 間違っても恋なんかじゃない。 期待に膨らんだ太っ腹に、現実を打ち込まれているんだ。 駅前の洒落たイタリアンなお店のショーウィンドーに映る冴えないオタク。 これ、おれだから。猫背、悪化したかも。 ショーーウィンドーから客の不快そうな視線に気づき、慌てて歩き出す。 さっきよりも、深いため息。 鬱々とした思考だけが循環し続ける。 死にたい。 死ねない。 なんで? なんでって、母ちゃんが……。 我慢していいの? 何が? 改札への階段を昇る。 横を過ぎ去る女子高校生たち。 いいなあ。混じりたくないけど。 「カラオケ行こうよー、ねー」 「えー、またぁ? それよりもマックでさ、山下の話しよー」 「賛成。山下と松村さんって付き合ってるんでしょ? 凸凹カップルだよねー」 「身長差のこと?」 「性格的にもー」 「やだ、りかちゃんったらー」 甲高い声が頭に響く、やめてくれ。 二日酔いは頭が痛くなると言う。おれは二日酔いじゃないけど、とんでもなく頭がいたいし、フラフラする。 慣れた手つきで、改札を抜けるおれ。 前は定期無くして、泣きわめいてたのによ。
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