天使の甘言

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 車内は空いている。汗臭いサラリーマンの集団のかほりが、うぐ、臭い。  この臭い、と電車に乗ると度々するゴムの焼けたような臭いが、大嫌いだ。  夕陽が川面に飲まれていく。おれは二人掛けの座席で黄昏る。  このとき、読んでいるラノベから目を離し、夕陽の眩しさに眉間をしかめるのが、たのしい。文学少年、に見えるかな? ……だから、おれは友達いないのかもしれない。 誰かが落としたアルミ缶がコロコロ転がる。誰も拾わない。おれも拾わない。 窓辺に肘を載せ、頭をコツンと窓にぶつける。 おれもあのアルミ缶だ。気にかけるほどの存在じゃないくせに、たまに目障り。良し悪しで言うと、うーんと悪し? みたいな中途半端なやつなのだ。 そっと立ち上がると、おれはアルミ缶を持ち、また同じ席でうなだれた。
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