天使の甘言

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淡い期待ははかなく崩れ去るもので、おれは自宅近くの駅のホーム。木製ベンチで膝を抱えていた。 怖いんだ。 ここで、こうしていないとたぶん、だめだ。 風が巻き起こる。目の前を貨物列車が横切ったからだ。 轟音と風が一瞬で過ぎ去る。 風圧に少し、押されて気づく。 飛び込もうか? しかし、だめだ。 そんな勇気すらないんだ。もう、勇気すらないんだ。いや、その行為こそ勇気がなければできない。 頭上をカラスが飛び去る。ベンチに座る僕の影が伸びる。 遠くから、エーデルワイスが流れてきた。近くの小学校だろう。ノスタルジーな気分に浸れるなと思ったら、どこか遠くから流れてきた赤とんぼとコラボレーションし始めた。 「なんだそれ」 自然に笑みがこぼれた。 傍から見たおれはたぶん、「キモい」んだろう。大丈夫。慣れてる。 変な目で見られてる。異様なものを見るような目だ。
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