【序章】

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「やだっ……誰か……誰か助けてっ……!!」 自分の息遣いだけが聞こえる。 周囲に人間は誰もいない。 走っても走っても、灯りの燈る家はなく、どの建物も閉まっている。 時間にして言えば逢魔が時。 帰宅ラッシュのこの時間、自分以外の人間がいないなどあり得ないのだ。 なぜ、誰もいないのか。 後方を見ると、顔だけの化け物が私を追ってきていた。 顔の周りには車輪が付いている。 いや、車輪の中に鬼の顔だけが付いている。 そう、私、蓮見紗羅(ハスミ サラ)はこの化け物に追いかけられている。 どれだけ走ったのだろうか。 横腹が痛み、息がうまく吸えない。 「誰か助けてぇ……!」 涙が頬を伝う。 まだ私は高校二年生、17歳。 友人はたくさんいるが、彼氏は一度も出来たことがない。 まだやり残したことがたくさんある。 なのに、こんな化け物に人生を終わらせられようとしている。 「もうっ……走れない……!!」 体力は限界だった。 なんせ私はクッキング部。 体を動かす部活には入っていない。 脚が動かなくなり、その場に転んでしまった。 同時に足首を捻ったようで、私はその場に座り込んだ。 季節は初夏。 地面のコンクリートが冷たい。 もう私は、化け物から逃げる気力を無くしていた。
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