【6】君を縛り付ける為の約束を

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「ただいま」 「お、おかえりなさい!」 リビングに現れた俺に対し、彼女は慌てた様子を見せると、一瞬、眉をひそめた。 けれどそれも直ぐに解かれ、取り繕った笑顔を向けられる。 「もう少しでごはんが炊けるので、よかったら先にお風呂どうぞ」 普段ならば、彼女からこのような言葉が出てくる事は無い。 俺が彼女に食事の仕上がりを聞き、それに合わせて風呂が先か後かを自分自身で決めている。 どうやら彼女は、最悪の事態に備える心構えの時間を欲しているらしい。 「……分かった」 俺は彼女に微笑を落とすと、促された風呂場へと向かった。 本当は、今直ぐここで誤解を解いてしまいたい衝動に駆られていた。 けれどそこをグッと我慢出来たのは、彼女の気持ちを尊重したかったからだ。 結果を考えれば、彼女の気持ちを無視しても良かったのかもしれない。 けれどそれは、大人気ない俺のエゴ。 こんな風に相手を思いやれるようになったのも、一つの成長なのかもしれない。 人間、気付かぬうちに成長しているものなのだなと、何故か他人事のように感じた。
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