【7】全ての悪から、君を守ると決めた

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「優愛」 半ば放心状態の彼女に、優しく声を落とす。 「おばあさんにも会わないとだろ」 「……はい」 彼女は小さく頷くと、ふわふわとした足取りで歩き始めた。 よく頑張った、と声を掛けようと思ったが、彼女の横顔は未だ複雑な想いに虚ろなままだ。 ここはそっとしておくべきなのかもしれないと思い直した俺は、差し出し掛けた手を戻し、彼女の後を静かに付いて行った。 彼女が案内してくれた離れは、所謂昔ながらの日本家屋、といった佇まいだ。 空気に馴染む木の匂い。 そこへ微かに混じり込むのは、線香の香り。 床が軋む音も、目に優しい茶色の空間も、近代的なマンションで育った俺にはどれも新鮮で、そこはかとなく美しい情景に感じた。 この離れで幼い頃から祖母と二人で暮らしていたという彼女は、辺りを見渡しては懐かしそうに目を細める。 その表情は、憂いを含みつつも、不思議と柔らかく、優しい。 それは彼女と祖母が過ごした時間が、温かく、尊いモノであったと証明するかのようだった。
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