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「春樹さん」
不意に、俺を呼ぶ声のトーンが落ちた。
即座に空気の変化を感じ取り、チラリと彼女に視線を送る。
「わたしも、聞いてほしいことがあります」
真剣な彼女の声色に釣られて、心臓が微かに跳ねる。
「あぁ。何でも聞くよ」
マンションの駐車場へと車を停めて、エンジンを切る。
訪れた静寂に小さく響いた、彼女の「ありがとうございます」という呟き。
仄暗い空間に浮かぶ横顔は、凛としていて美しかった。
伏せた目を徐ろに開いた彼女は、俺を見据える。
――静かに交わる視線。
空気が止まったかのような、沈黙。
それは短いようで、酷く永い。
耐え切れなくなった俺は、彼女の視線から自ら逃れた。
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