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半ば、夢見心地だった。
駆け落ちなど、所詮はドラマや映画の中の夢物語だと思っていた。
しかしこれは、紛れも無い真実の物語。
残された子は、今俺の隣で静かに俯いている。
彼女は一通の便箋を取り出した。
今日、家から持って帰ってきたというそれは、カサリと乾燥した音を立てて広げられる。
黄色く焼けたその色は、彼女と同じ年月を経た証。
彼女が唯一触れる事の出来る、両親の痕跡。
正直、手に取る事を躊躇った。
そこに記されている内容が、温かいモノだとは到底思えなかったからだ。
養育の義務を無責任に放棄するその人間性が、俺には理解出来なかった。
仮にも彼女の両親である人達に、出来る事ならば嫌悪感は持ちたくなかった。
――けれど、その便箋に目を通し終えた時。
俺は、薄っぺらな自分を恥じる事になる。
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