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「この手紙を読み終えると、おばあちゃんは泣きながらわたしに言いました」
彼女は俺の手の中にある便箋を一点に見つめ、言葉を落とした。
その横顔を見て思う。
いつもの彼女では、ないと。
彼女のこの目を見るのは、恐らく二度目だ。
以前に見たのは、何時だっただろうか。
『どうかあなたの両親のことを恨まないでほしい。
二人があなたを私に託したのは、あなたを育てるお金も術も無かったから。
あなたは二人に愛されているから、ここにいるの』
「おばあちゃんの涙を見たのはそれが最初で最後です。
とても強い人でしたから、正直驚きました。
それに普段は自分のことを「ばあちゃん」と呼ぶ人なのに、このときだけは「私」と呼んで、口調も女らしくて、親の顔をしていたように思います。
だけど幼いわたしは、おばあちゃんの話を聞いても、この手紙を読んでも、泣くことは出来ませんでした」
彼女は語る。
淡々と、抑揚のない言葉を並べる。
まるで、知らない人の話をするかのように。
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