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彼女は、愛を知らずに生まれた。
彼女は、愛を注がれて育った。
与えられた愛に情を返すのは、人間の性。
その逆も然り、愛を与えられていない人間には、返す情もない。
だから両親に、何の感情も抱かないのだ。
そして彼女はあの雨の日に、唯一信じていた愛を失ってしまった。
人はいつか必ず死ぬ。
そんな事は分かっている。
老いも死も、逃れられない。
分かっている、分かっている。
「だからあの日、春樹さんが声を掛けてくれていなかったら……」
けれどそれでは、彼女の両親から託された願いが途絶えてしまう。
一人残された彼女には、もう、誰の愛も残っていない。
彼女の中の愛を、枯渇させてはいけない。
誰かが、願いを継承しなければならない。
……ならば。
「俺が」
――優しく、愛してやるから。
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