【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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その後も俺は鬼の熊さんの命を忠実に守り、保健部屋から一歩も外に出なかった。 幸いな事にクセモノたちの襲来もなく、優雅な読書の時間を堪能した。 そして20時を過ぎた頃、食事の時間だと呼び出され、職員が集まる宴会場へと案内される。 「よぉー遠山! 今日の任務を終えた褒美だ! 飲め飲め!」 「いえ、今日は保健部屋に潜伏するだけの簡単な任務でしたから、遠慮致します」 「ったくよぉー! おめーは本当にカタブツだよなぁ!」 鬼の熊さんは野太い声でヒャッヒャッと愉快な笑い声を飛ばし、俺の背中をバンバンと叩く。 アメフトで鍛えられた腕力に酒の力が加わり、思わず咳き込んだ。 ……勘弁してくれ。 「つーか遠山、細そうに見えて意外と筋肉質なんだなぁ!」 「ゲホッ……えぇ、まぁ、高校までずっとバスケをやっていたので」 「あんだと!? それなら球技大会に教員チームとして俺と出ろ!」 「お断りします」 「即答かよ!」 鬼の熊さんは再び愉快な笑い声を響かせると、顔のシワをくしゃりと寄せる。 飲みの場も酔っ払いも正直うんざりだが、熊井先生のような屈託の無い人間は、不思議と不快ではない。
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