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「俺もなぁ、嫁さんとチビが二人いてよぉ。あれほど愛おしいものはねーよ」
感慨に浸りつつ熊井先生はビールを一口流し込むと、ぷはーっと豪快に息を吐き出し、言葉を続ける。
「家庭を持ってみて、初めて分かるんだよ。人を愛することの意味ってやつがよぉ」
……男気溢れる図体にはどう考えても不釣り合いな、ロマンチックな台詞だ。
「そんで。遠山はまだわけーのに、妙に悟っちまってるのが勿体ねぇと、俺は思うわけよ」
「いえ、そんなことは……」
「遠山、今の彼女と結婚する気あんのか?」
強い眼光を向けられて、思わず息を呑んだ。
酒が入っているとはいえ、やはり鬼の熊さんの異名が付くだけの事はある。
これは俺を質問から逃げさせないための、威圧だ。
「そうですね、ただ今の俺では未熟なので、もっと成長してから……」
「それは違うな。いいか? 浅はかな自分を未熟の言葉で解決させちゃいけねーよ。人間はいつだって未熟だ。死ぬまでな。
だから成長するのを待ってたってダメなんだよ。未熟なりにもがけ。わけーんだから失敗の1つや2つ、気にすんな」
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