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熊井先生の言葉が、脳内に流れてリフレインする。
まるで俺の置かれている立場、状況を透視しているかのような忠告だ。
「家庭を持つまでは、愛じゃねぇ。相手をいくら愛していたとしても、それは単なる恋に過ぎねぇ。
だから何をやってもいいんだよ。本気で彼女のことが好きなら、迷わず全力で手に入れろ。いいな?」
「……はい」
何故すんなりと受け入れてしまったのか、自分でも理解出来なかった。
熊井先生の妙に説得力のある言葉は、十数年に及ぶ教員の経験、その賜物なのだろうか。
「よし、遠山! いい恋しろよ! そんで幸せになりやがれっ!」
熊井先生はグラスに残ったビールを一気に飲み干し、感嘆の息を吐く。
先程までの真剣な眼差しは、もうそこにはない。
「……一つ、聞いていいですか」
「あん?」
「何故、私にそんな話を?」
そう問うと、熊井先生は一度大きく目を見開き、そしてニヤリと笑った。
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