【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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熊井先生の言葉が、脳内に流れてリフレインする。 まるで俺の置かれている立場、状況を透視しているかのような忠告だ。 「家庭を持つまでは、愛じゃねぇ。相手をいくら愛していたとしても、それは単なる恋に過ぎねぇ。 だから何をやってもいいんだよ。本気で彼女のことが好きなら、迷わず全力で手に入れろ。いいな?」 「……はい」 何故すんなりと受け入れてしまったのか、自分でも理解出来なかった。 熊井先生の妙に説得力のある言葉は、十数年に及ぶ教員の経験、その賜物なのだろうか。 「よし、遠山! いい恋しろよ! そんで幸せになりやがれっ!」 熊井先生はグラスに残ったビールを一気に飲み干し、感嘆の息を吐く。 先程までの真剣な眼差しは、もうそこにはない。 「……一つ、聞いていいですか」 「あん?」 「何故、私にそんな話を?」 そう問うと、熊井先生は一度大きく目を見開き、そしてニヤリと笑った。
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