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十夜は彼女の浴衣姿を見るのだろうか。
まさか、本気で惚れたりしないだろうか。
しかし幾ら不安を募らせた所で、今の俺に何かが出来る訳でもない。
乱れた気持ちを紛らわすべく、読みかけの書籍を取り出すと、広縁の籐椅子に腰掛けた。
そのうち、彼女からメールも返ってくるだろう。
『温泉、とても気持ちよかったです。春樹さんは入られましたか?』
とか、こんな感じだろうな。
彼女の事を想うと、心が落ち着く。
温かく、穏やかな気持ちにさせられる。
今日、彼女の浴衣姿を見る事は叶わないだろうから
いつか、彼女を旅行に連れて行こう。
そこで彼女の浴衣姿を独り占めしよう。
……なんて贅沢な時間だろうか。
幸せな想像を浮かべ、書籍を開く。
穏やかな空気を断ち切る音が響いたのは、それから数分後の事だった。
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