【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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「恥ずか……し……」 彼女が俺の髪をくしゃりと掴む。 込められたひ弱な力に、ようやく理性が降りてきた。 ――ダメだ、耐えろ。 傷付いた彼女を無理やり抱いて、何になる。 先ほどの泣きじゃくる彼女の姿を思い出して、強制的に欲情を断った。 白肌を最後に大きく吸い上げて、そっと唇を離す。 顔を上げると、視線が交わった。 羞恥と闘う彼女の頬は真っ赤に染まり、溢れんばかりの涙を溜めて潤んだ瞳。 高揚を必死に耐えるその表情を見て、俺はある確信を得た。 途端に幸福な満足感に包まれて、髪に宛てがわれた彼女の手をそっと包み込むと、静かに降ろす。 「消毒完了」 ――次に触れる時は、もっと感じせてやるからな。 そう心の中で呟いて、精一杯に優しい微笑みを彼女に向けた。
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