【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

36/48
前へ
/678ページ
次へ
「わっ、わたしは……」 彼女は何かを言い掛けて、ぐっと口を噤(つぐ)んだ。 ……俺も鈍くはない。 俺になら触れられても良いと、泣かされても良いと、そう言いたいのだろう。 けれどそれは、大きな間違いだ。 彼女が仮に俺に好意を抱いてくれていたとしても、それは本当の俺ではないのだから。 彼女は知らない。 俺も、立派なケモノなのだという事を。 「……ごめんな」 「え……?」 「無理やりされて怖かっただろうに、俺も同じことした」 「……あ」 彼女は残された痕を見つめた後、きょとん顔を見せる。 大きく、痛々しく上書きされた痕は、まるで俺の独占欲をそのままカタチにしたような濃赤だ。 「ほんと、ごめん。冷静じゃなかった」 本当に大人げない。そして情けない。 いくら上辺を取り繕っていても、結局こういう時にはガキの本性が出てしまう。
/678ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6454人が本棚に入れています
本棚に追加