【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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「俺を頼ってくれて、ありがとう」 彼女は誰よりも先に、俺を頼ってくれた。 それが俺にとってどれだけ嬉しい事か、彼女は気付いているだろうか。 過去の俺はずっと「頼られる事」を望んでいた。 当時は叶う事なく、心の奥深くに沈んでしまった望みを 彼女は今、叶えてくれたのだ。 俺は彼女の事を、どれだけ好きになれば気が済むのだろうか。 俺を正してくれる彼女に、どれだけ感謝をすればいいのだろうか。 「こちらこそ……ご迷惑を」 彼女が言おうとしている事を瞬時に察し、その唇を指で押さえ付ける。 「俺は嬉しいんだから、それ以上言うな」 「……はひ」 彼女の下がった眉尻を見て満足し、そっと指を離し、微笑んだ。
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