【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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その言葉が持つ意味は、訳さずとも一つ。 一番避けたかったこの状況を、今まで何度も思い浮かべては消し去ってきた。 そうならないで欲しいと、強く願っていた。 その理由を十夜に伝えたら、俺は間違いなく今以上に嫌われてしまうのだろう。 「それでも、彼女だけは渡したくねぇな」 「……あ?」 俺が臨戦態勢を解いた事を察してか、十夜は微かに目を細める。 「ンだよ、やっぱその程度の女なのかよ」 「いや、彼女以上に大切なモノなんてねぇよ」 そう、自分に言い聞かせた。 俺にとって、何よりも大切で、何よりも愛おしい存在は、彼女だ。 それだけは揺るぎない。 ――揺るがせてはならない。 「彼女が欲しいなら、正攻法で奪いにこい」 俺はこの時 クソ生意気でクソ可愛くない弟よりも 愛しい彼女と身勝手な幸福を、選ぶと決めた。
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