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十夜は「言われなくても全力で奪ってやる」と捨て台詞を残し、旅館へと戻っていった。
……こうして彼女をめぐる兄弟喧嘩の火蓋は切られた訳だ。
十夜は正攻法、フェアプレーを受け入れたので、今後は無理やり彼女を襲うような真似はしないだろう。
しかしそれは同時に、俺にも課せられたルールとなる。
俺はまた自らの手で、自制という名の鎖を、痛く強く締め付けてしまったのだ。
……しかし冷静になってみれば、どう考えてもフェアではない。
彼女と衣食住を共にしているという時点で、俺へのアドバンテージはチートレベルだ。
「……最低だな、俺は」
頭の中では彼女と十夜を天秤にかけ、あたかも弟想いの兄を演じておきながら
結局は無意識のうちに、自らにとって都合の良い方向へと仕向けていた。
「そこまでして、彼女を手放したくないのか」
自らに問うように、呟いた。
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