【8】今夜はどうにも、眠れそうにない

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誰の姿も見えなくなった直線の道を眺め、しばし春の風を浴びた。 彼女の頬を染めた桜も役目を終え、1年後、再び訪れる演舞の時を待つ。 ……1年後。 彼女はまた、桜の中で俺の名を呼んでくれるのだろうか。 不確かで、あやふやで、少しでも違えば容易に崩れるであろうこの関係は 1年後も、続いているのだろうか。 彼女の祖母と交わした約束。 十夜との間に設けたルール。 道徳、倫理、互いの立場。 様々な制約を雁字搦めにしても尚、1年という月日を乗り越えられる自信は、正直ない。 もしも今、彼女が俺を好きになってくれたとしても。 俺は一生、仮面を被った優しいだけの人間を演じなければならない。 俺の過去など彼女にとっては毒以外の何物でもなく、話した所で到底受け入れてもらえるとも思えない。
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