【9】黒から白は、生まれない

4/65
前へ
/678ページ
次へ
教授が奮発して買った全自動のエスプレッソマシンにカップを起き、ボタンを押す。 渋い香りがじわりと広がるこの一時も、また俺のお気に入りの時間だった。 デスクへ腰を下ろすと、昨日までとの変化に気が付く。 暫く俺を蝕んでいた鈍い痛みは、今日でやっと消えてくれたらしい。 少し前までは、ちょっとやそっとの運動では筋肉痛になどならなかった筈だ。 俺もそれなりに年を重ねたという証拠なのか、それとも極端な運動不足の所為か……。 「本当に、そろそろキツいな」 と言いつつも、特別に行動は起こさない。 ヤらせてくれれば誰でもいいと思ってた数ヶ月前の自分は、既に他人様の領域だ。 そんな俺に比べて十夜は、(そっちが盛んな為だからかは知らないが)何試合も終えた後にも関わらず、良く身体が動いていたと思う。 経験無しであそこまで動けるのだから、センスで言うなら俺よりもずっと上なのかもしれない。 ただ、あの時、あの場で、俺は絶対に負ける訳にはいかなかった。 愛しの彼女の前で格好付けたく無い男など、この世には存在しない。
/678ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6455人が本棚に入れています
本棚に追加