【9】黒から白は、生まれない

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「そもそも君は、球技大会に出ればこうなることくらい、分かっていたはずだ。 いくら熊井先生の頼みだからとはいえ『ルールはルール』と断ることもできた。 なのに君は、試合に出た。それは後の苦労を受け入れてでも、得られる結果に価値があると踏んだからだ。 そしてそれを見事に得た君は、訪れた苦労にも勝るほどの幸福を感じている。と、いうことは――」 それは探究心を潜ませた、研究者の瞳。 レンズの内から俺を射抜こうと、向けられる。 「会場にいたんだね? 君のウサギちゃん」 カマをかけているのか、それとも単なるはったりか。 ニヤッと笑うその表情には確信の色がありありと浮かんでいるから、逃れられる筈もなく。 「参りました」 「だーよねっ! それなら僕がウサギちゃんに会える日もそう遠くはないかもだねー!」 ……全く。 本当にこの人には、敵わない。
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