【9】黒から白は、生まれない

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そんな事を考えていると、コンコン、と控えめなノック音が響いた。 恐らく、今日最後の面談者だろう。 教授はまだ学科の会議から帰ってきていないが……仕方ない、少し中で待っててもらおう。 「どうぞ」 「失礼します」 「……優愛?」 ドアのスライド音と共にやってきたのは、聞き慣れたか細い声だった。 全く以て心構えをしていなかったので、少しドキリとしてしまった。 そろそろかとは思っていたが、今日だったとは。 「春樹さん……メガネ、するんですね」 「メガネ? あぁ、これはブルーライト対策」 パソコンに長時間向かう時のみ使っているメガネだ。 自宅でも自室で仕事をしている時は掛けているが、彼女にはまだ見せた事がなかったらしい。 こういう些細な瞬間に、まだ互いに知らない部分が沢山あるのだという事実を思い知る。
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