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「教授、そろそろ帰りましょう。明日も朝から講義があるんですから」
徳利2本目、最後の一杯がお猪口(ちょこ)に注がれたタイミングで、声を掛けた。
「車取りに行ってくる。教授のこと宜しくな」
そう彼女に耳打ちして、コートと荷物を手に席を立った。
会計を済ませて店の外へ出ると、途端に暗がりへと変わる景色に、まるで現実に戻ってきたかのような感覚を覚えた。
すり抜けた夜風には、微かな初夏の温もりが混じる。
俺は羽織ろうと広げたコートを腕に持ち直し、駐車場へと向かった。
……今頃、あちら側では何が語られているのだろうか。
教授の事だ、俺の過去を匂わせたとしても、全てを語る事はしないだろう。
義理堅い人ほど、口も堅いものだ。
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