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「……こえーな」
今まで散々、人を蔑(ないがし)ろにしてきたくせに
たった一人の女性に嫌われる事は、こんなにも恐ろしい。
その時を目前にして、やはりこのまま彼女を騙し続けて生きる事が互いにとっての最善なのではないかと、怖気付いてさえいる。
話さないでいられるのならば、それが一番だ。
けれど隠し続ける苦しさから解放されたい思いも、また強い。
こんな事なら、高校時代の俺の方がよほど迷いの無い人間だった。
行いこそ愚かだったが、想いだけは常に一路だった。
痛みを知り、時を重ね、逃げる術を得た。
これが大人になるという事ならば、人間とはなんと滑稽な生き物だろうか。
「腹、くくれよ」
俺は数十分後の俺に激励の言葉を送り、一人、車へと乗り込んだ。
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