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教授を送り届けた後、自宅へと向かう。
彼女を助手席に乗せるのは久々で、ハンドルを握る手には妙に力が入る。
店に戻ってきた俺に対する二人の反応を見て、確信した。
彼女は、俺の過去の一部を知った。
「わたしは春樹さんが冷たい人だなんて感じたことないです。春樹さんはいつも優しいですし……」
俺は今から、必死になって作り上げた偽りの俺を、自らの手で排除しようとしている。
「……春樹さん」
あぁ、本当に怖い。
「もし嫌だったら答えなくていいんですけど……以前好きだった人って、どんな人だったんですか?」
不整脈を疑う程、不快に刻まれる鼓動。
動揺を悟られまいと、笑顔を取り繕い、余裕を演じた。
彼女に本当に聞きたいのか、試すように問うてみた。
すると彼女は躊躇いつつも、聞きたいとハッキリ答えた。
ここにはもう、出会った頃の臆病な彼女はいない。
意見を言うようになり、意思と選択を持つようになった。
心から、嬉しいと思う。
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