【9】黒から白は、生まれない

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「君、名前は?」 「……遠山」 「したの名前は?」 「なんで言わなきゃいけないわけ」 「来室名簿に書かなきゃいけないからです」 「…………春樹」 「春樹くん、いい名前じゃない」 その人は小瓶の中から球体のガーゼを取り出し、ピンセットでそれを摘む。 「ほら、消毒するから顔上げて」 「は? ガキじゃあるまいし、自分で」 「いいから、ほら」 その人は俺の顎をぐいと掴んで持ち上げると、無理やり顔を上げさせた。 「染みるよ、我慢してね」 下唇の少し下に、そっと当てられたガーゼ。 痛くはない。 ただ、この沈黙と、一路に向けられた視線が……妙にむず痒い。 目線を何処に置けばいいか分からず、出来る限り下を見た。
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