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「君、名前は?」
「……遠山」
「したの名前は?」
「なんで言わなきゃいけないわけ」
「来室名簿に書かなきゃいけないからです」
「…………春樹」
「春樹くん、いい名前じゃない」
その人は小瓶の中から球体のガーゼを取り出し、ピンセットでそれを摘む。
「ほら、消毒するから顔上げて」
「は? ガキじゃあるまいし、自分で」
「いいから、ほら」
その人は俺の顎をぐいと掴んで持ち上げると、無理やり顔を上げさせた。
「染みるよ、我慢してね」
下唇の少し下に、そっと当てられたガーゼ。
痛くはない。
ただ、この沈黙と、一路に向けられた視線が……妙にむず痒い。
目線を何処に置けばいいか分からず、出来る限り下を見た。
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