【9】黒から白は、生まれない

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「はい、終わり。よくできました」 ふわっと笑ったその人は、俺の頭にポンと手を置き、くしゃりと撫でる。 そして踵を返し、デスクへと戻って行った。 「……は?」 「ん? なに?」 「いや……なんでもない」 人に、頭を撫でられた。 その行為自体、俺には初めての出来事で、拒否する暇もなかった。 「ねぇ、もう喧嘩なんてやめなよ」 「……あ?」 「綺麗な顔が台無しだよ? ま、でも」 振り返ったその人は、俺を見据える。 昇りきらない陽光を背にした、翳りのある笑み。 「もしまた怪我したら、その時はいつでもおいで」 エタノールの香り、そよぐカーテン。 「ハルくん」 メゾソプラノの声。
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