【9】黒から白は、生まれない

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大嫌いな名前を呼ばれた。 しかし不思議と不快ではなく、やはりむず痒さを感じた俺は、出来る限り下を見る。 「……こいって言われると、きたくなくなるよな」 と言いつつ、俺が再び保健室へと足を運んだのは、この3日後。 またしても絡まれた事による喧嘩で、やはり唇を少し切った。 その人は俺の不興顔を見て、ふわっと笑う。 「おかえり」 ――以降、俺は度々保健室へ足を運んだ。 特に意図や理由があった訳ではない。 ただ、暇を持て余した時には自然と足が向く。 気が付けば、俺の定位置は侘しい一人掛けのソファから、回転式の安っぽい音のする丸椅子へと変わっていた。 会話を重ねて、少しずつその人の事を知っていった。 年齢は27。 身長は158センチ、体重は……教えてくれなかった。 趣味はコンビニの新作菓子を漁る事。 そして少しばかり驚いたのが、去年結婚したばかりの新妻であるという事。 その人は、指輪をしていなかった。
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