【9】黒から白は、生まれない

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幸せの絶頂期であるはずが、その人は旦那について語る時、必ず意味深な間を含ませる。 「……うん、旦那の話はまぁ、いいよ」 その後は決まって、分かりやすく取り繕った笑顔を見せた。 あからさまに気を引くような態度を取るので、突っ込んで聞いてやろうかとも思った。 けれどそれまで極力人との関わりを避けて生きてきた俺には、デリケートな問題に対しての適切な距離感が分からず、結局深くは触れられずにいた。 その人の空気は、不思議な心地だった。 その人は特別美人でもなければ、目立った魅力がある訳でもない。 ただ、穏やかに時間だけが過ぎた。 ――季節は移ろい、春半ば、雨降らしの季節がやってくる。
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