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「昨日も旦那と喧嘩したの。毎日喧嘩ばっかりで、もうヤダ」
腰に回された腕に加わる力と、震える語尾。
この人は今、俺の背中で泣いている。
「結婚したら、人が変わったの。優しい人だったのに、今はいつも、怒るの。
男の人が怒ったら、女は何もできないんだよ。怖くて、泣くことしか、できない……!」
メゾソプラノの声は、みるみるうちに途切れていく。
――こういう時どうすれば良いのか、俺は知らない。
女に優しくした事なんてなかったから。
けれど嗚咽を挟んで、苦しげに揺れる背中の感触には耐え切れず
腰に回された腕を引き剥がし、反転し、正面から包み込んだ。
「よくわかんねーけど、泣くなよ」
「ハル、くん……」
抱き締めた身体は見た目よりも柔らかく、小さかった。
抱擁などした事もなかったので、加減が分からない。
ただその震えが止まればいいと、気持ち強めに抱き寄せた。
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