【9】黒から白は、生まれない

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「昨日も旦那と喧嘩したの。毎日喧嘩ばっかりで、もうヤダ」 腰に回された腕に加わる力と、震える語尾。 この人は今、俺の背中で泣いている。 「結婚したら、人が変わったの。優しい人だったのに、今はいつも、怒るの。 男の人が怒ったら、女は何もできないんだよ。怖くて、泣くことしか、できない……!」 メゾソプラノの声は、みるみるうちに途切れていく。 ――こういう時どうすれば良いのか、俺は知らない。 女に優しくした事なんてなかったから。 けれど嗚咽を挟んで、苦しげに揺れる背中の感触には耐え切れず 腰に回された腕を引き剥がし、反転し、正面から包み込んだ。 「よくわかんねーけど、泣くなよ」 「ハル、くん……」 抱き締めた身体は見た目よりも柔らかく、小さかった。 抱擁などした事もなかったので、加減が分からない。 ただその震えが止まればいいと、気持ち強めに抱き寄せた。
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