【9】黒から白は、生まれない

38/65
前へ
/678ページ
次へ
「……私、ツラいの」 腕の中でもぞりと身動(みじろ)ぎ、その人は顔を上げた。 涙で歪む瞳が訴える。 「寂しいの」 心臓が揺れる音を聞いた。 欲情に駆られる衝動に、焦りと混乱が混ざる。 ……どうすればいい、何をすればいい? この人は俺に何を求めている? この人は、俺を…… 「誘ってんの?」 その人は何も答えない。 代わりにその目が微かに細められ、縁から雫が一粒、落ちた。 俺には、肯定の涙に映った。
/678ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6456人が本棚に入れています
本棚に追加