6456人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとう」その真意は分からなかったが、心に生暖かい感情が焼き付いた事だけは、自分でも分かった。
――目を閉じれば、その人の顔が浮かんだ。
目を開けると、そこには現実の世界があって、嫌になってまた目を閉じた。
そうして徐々に現実を避けるようになり、穏やかな時間へと逃げた。
雨の日は決まって保健室に行った。
グレーの雨が俺たちを隠してくれるから、罪の意識が薄れる気がした。
その人は俺の前でよく泣いた。
涙が始まりの合図だった。
初めは、雨の季節の終わりと共に、この関係も終わらせるつもりだった。
けれど、出来なかった。
何時からか、抱いた後のその笑顔が、欲しくて欲しくて堪らなくなって
罪の意識は、欲の意識に飲み込まれていった。
最初のコメントを投稿しよう!