【9】黒から白は、生まれない

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「ありがとう」その真意は分からなかったが、心に生暖かい感情が焼き付いた事だけは、自分でも分かった。 ――目を閉じれば、その人の顔が浮かんだ。 目を開けると、そこには現実の世界があって、嫌になってまた目を閉じた。 そうして徐々に現実を避けるようになり、穏やかな時間へと逃げた。 雨の日は決まって保健室に行った。 グレーの雨が俺たちを隠してくれるから、罪の意識が薄れる気がした。 その人は俺の前でよく泣いた。 涙が始まりの合図だった。 初めは、雨の季節の終わりと共に、この関係も終わらせるつもりだった。 けれど、出来なかった。 何時からか、抱いた後のその笑顔が、欲しくて欲しくて堪らなくなって 罪の意識は、欲の意識に飲み込まれていった。
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