【9】黒から白は、生まれない

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「美緒さん」 その人の事を名前で呼ぶようになったのは、何時からだったろうか。 少なくとも、夏休みに入る前には気恥ずかしさもなくなっていた。 「夏休みは会えねーの?」 「学校お休みだからね」 「外で会えばいいだろ」 「だーめ。もし誰かに見られでもしたら、ハルくんに迷惑が掛かるから」 「別に、俺は……」 「先生の言うことは聞きなさい?」 そう言っておどけたように笑うから、俺は何も言えなくなってしまう。 俺はこの頃から、少しずつこの関係に不満を抱くようになっていた。 相変わらずその人は旦那と上手くいっていないと言いながら 「昨日は料理を褒めてくれた」だとか 「珍しく早く帰ってきてくれた」だとか 本当に嬉しそうな顔で、報告してくるのだ。
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