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彼女は人に迷惑を掛けることに、酷く抵抗があるようだった。
恐らくそれは彼女を取り巻く環境の所為なのだろうが、何も分からない以上、断定も出来ない。
けれど今、彼女には他に頼る宛が無いことは確かだ。
遠慮や申し訳無さよりも勝る本音は、恐らく。
「わたしは……ここに、居たいです」
そう、その言葉を待っていた。
「……よし」
ならば俺は、それに応えるだけ。
彼女の不幸な境遇でさえ好都合だと捉えてしまう辺り、俺の性悪度は道徳に反するレベルなのだと改めて実感する。
「そうと決まれば、とりあえず買い物だな。あと、濡れた服のクリーニングも」
そう彼女に笑い掛けると、申し訳無さからなのか、安堵感からなのか、彼女の目が少し潤むのを感じた。
あぁ、本当にウサギみたいな子だなと、不謹慎にも可愛らしく思えてしまう。
悪意のない純真な涙は、もはや脅威だ。
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