【9】黒から白は、生まれない

52/65
前へ
/678ページ
次へ
「明日荷物を出したら終わりなの。でも、悲しいからお別れは今日、今ここにしとこうね。 バイバイ、ハルくん。元気でね」 その人は眉尻を下げ、ふわりと笑った。 ――こんなにも呆気無く終わってしまうのか。 始末の付けられない想いに虚しさを覚え、その人の言葉を無視し、次の日も保健室へと向かった。 謝罪と感謝の気持ちを込めて、その人によく似合う、オレンジ系の小さな花束を買った。 それを渡したら潔く、全てを断とうと決めて。 グランドから保健室を眺めると、半分ほど開けられた窓のカーテンがふわりとなびいていた。 最後なので少し驚かしてやろうと思い、窓へと近付いていく。 すると室内から声が聞こえ、誰か先客がいると察した俺は、慌てて窓の下へとしゃがみ込む。 「――そうそう、今日が最後なの」 暫くして、それが電話であるという事に気付いた。
/678ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6456人が本棚に入れています
本棚に追加