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「え、退職祝い? やだイヤミー? あはは」
くだけた口調と、普段よりも1トーン低い声に少しばかり驚いて、俺は見えないその姿に息を潜めた。
「うーん、この展開は正直想定外だったなー。ちょっと本気にさせすぎちゃったみたい」
血液が循環を止める。
これ以上は聞かないほうがいいと本能が言うのに、硬直した身体はピクリとも動かない。
「でもこれで旦那に仕返しできたし。旦那も少しは浮気される方の気持ちが分かったみたいで、もう二度と浮気はしないって約束してくれたよ。だから後悔はしてないかなー」
狂ったように脈打つ心臓は、紛れも無い警鐘。
ダメだ、
これ以上聞いたら、俺は――
「え、悪女? やだ、そんな言い方しないでよ。あっちはなーんもバツ受けてないんだからさ。金持ちの力ってすごいよねぇ。それにまだ若いし、私のことなんてすぐ忘れるよ。
あー見せてあげたかったなぁ。ハルくん、超イケメンだったんだよ?」
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