【9】黒から白は、生まれない

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――急な吐き気に襲われた。 耐えられなくなった俺は、手の中の花束を放り投げ、校舎裏の水道へと走った。 「――ゲホッ、ゲホッ……はっ」 蛇口を持つ手が震えていた。 喉は焼けるように痛み、苦みで全身が総毛立つ。 「なん、だ……今の」 夢か、幻か。 「み、お……さん……?」 俺の知っているあの人は、あんな口調で喋らない。 あんな声で、俺の事を“ハルくん”だなんて―― 「……ッ!」 思い出して、また吐き気に襲われた。 何度も何度も吐き出して、空になっても尚、吐き出した。 “ハルくん” “ハルくん” 俺を呼ぶその声が、毒となって全身を廻流する。
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