【9】黒から白は、生まれない

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あれが、本音か。 何だよ、最初から言ってくれれば、こんな事にはならなかったのに。 深入りせず、他の女と同じように、ただ抱くだけの存在にしておけたのに。 ちっとも、気が付かなかった。 「バカみてー……」 一人で盛り上がって、一人で恋をして。 「……くそッ……!」 たった半年の恋だったけれど。 何もかもがつまらないモノクロだった世界は、あの人の手によって鮮やかに染められた。 そして最後は同じく、あの人の手によって 深い深い、漆黒に染められた。 俺に残されたのは 「女はあざとい生き物だ」という訓えと 名前を呼ばれると拒否反応を起こす身体 「大人になる事」への執着 ――それだけだった。
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