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「は、春樹さ……」
……まずい。
「なんで泣くんだよ」
冷徹な態度でいなければならないのに、彼女の涙を見た心臓は狂ったように脈打ち始める。
女の涙は何時でもズルい。
いとも簡単に平常心を奪っていく。
「泣くポイントなんてなかったはずなんだけど」
「すっすみませ……でも、だって……春樹さんが……」
「俺が、なに?」
「自分を……とても、嫌ってるように、聞こえて……」
……そうか。
純真な感情には、そう映るのか。
「実際、その人のおかげで俺は変われたし、その人には感謝してる。前に優愛が言ってたように、過去の俺がいるから、少しはまともな人間になれたんだと思う」
これは本音で、俺はあの人を恨んでもいなければ、特別自分を嫌ってもいない。
もちろん抹消出来るのであればそうしたいが、起きてしまった事は変えようのない過去なのだから。
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