【9】黒から白は、生まれない

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「は、春樹さ……」 ……まずい。 「なんで泣くんだよ」 冷徹な態度でいなければならないのに、彼女の涙を見た心臓は狂ったように脈打ち始める。 女の涙は何時でもズルい。 いとも簡単に平常心を奪っていく。 「泣くポイントなんてなかったはずなんだけど」 「すっすみませ……でも、だって……春樹さんが……」 「俺が、なに?」 「自分を……とても、嫌ってるように、聞こえて……」 ……そうか。 純真な感情には、そう映るのか。 「実際、その人のおかげで俺は変われたし、その人には感謝してる。前に優愛が言ってたように、過去の俺がいるから、少しはまともな人間になれたんだと思う」 これは本音で、俺はあの人を恨んでもいなければ、特別自分を嫌ってもいない。 もちろん抹消出来るのであればそうしたいが、起きてしまった事は変えようのない過去なのだから。
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