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「無理です、嫌いになんてなれません」
それは初めて耳にした、強い意志を持った声色。
余りに驚いて一瞬視線を奪われたが、すれ違う車の風を切る音にはっとして慌てて前に向き直る。
「だって、過去も今も、春樹さんは春樹さんです、わたしは嫌いになんてなれません……!」
細い声と途切れる息を繋ぎ合わせて、彼女は訴える。
「だから……そんな顔、しないで、くださ……」
「……ごめん」
ハンドルから左手を外し、彼女の頭へ乗せた。
「春樹さ……わたしは嫌いになんて……」
「優愛、分かったから。泣くな」
これ以上は聞かまいと、少し乱暴に彼女の頭を撫で、下を向かせた。
けれど撫でる程に彼女の涙は止まらなくなるようで、酷く動揺した思考は更に混乱を増す。
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