【9】黒から白は、生まれない

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どうして彼女は分かってくれないのか。 俺が必死に彼女を正しく愛そうとしているのに、まるでそれは間違いだと言わんばかりの涙を見せる。 「ごめ、なさ……ほんとは、きっと、聞かれたく……なかったのに……」 「いいんだよ。けど参ったな。嫌われるために話したのに、拒否される上に泣かれるなんて」 この期に及んでも、彼女は俺の心配をする。 本当に参る。 泣いている女の慰め方は1つしか知らない。 唯一のそれも、今この状況では不可能だ。 考えあぐね、左手で彼女の右手をそっと包み込む。 応えるように、手の中の手は華奢な力で強張った。 彼女を愛する方法は彼女を諦める他にないのだと、それが俺の望むところなのだと、そう思っていたのに 少しでも彼女に触れてしまうと、うっかり手放してしまいそうになる。 彼女を悲しませる事は覚悟の上での選択だった。 けれどいざ真正面に涙をぶつけられたら、為す術もない。 相変わらず、脆い意志だ。 彼女が俺にぶつけた意志の方が、よほど明確で強固じゃないか。
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