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どうして彼女は分かってくれないのか。
俺が必死に彼女を正しく愛そうとしているのに、まるでそれは間違いだと言わんばかりの涙を見せる。
「ごめ、なさ……ほんとは、きっと、聞かれたく……なかったのに……」
「いいんだよ。けど参ったな。嫌われるために話したのに、拒否される上に泣かれるなんて」
この期に及んでも、彼女は俺の心配をする。
本当に参る。
泣いている女の慰め方は1つしか知らない。
唯一のそれも、今この状況では不可能だ。
考えあぐね、左手で彼女の右手をそっと包み込む。
応えるように、手の中の手は華奢な力で強張った。
彼女を愛する方法は彼女を諦める他にないのだと、それが俺の望むところなのだと、そう思っていたのに
少しでも彼女に触れてしまうと、うっかり手放してしまいそうになる。
彼女を悲しませる事は覚悟の上での選択だった。
けれどいざ真正面に涙をぶつけられたら、為す術もない。
相変わらず、脆い意志だ。
彼女が俺にぶつけた意志の方が、よほど明確で強固じゃないか。
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