【9】黒から白は、生まれない

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「降りて」 マンションに着くや否や、車を降りて助手席にまわり、彼女の腕を強引に引いた。 「ごめん」 驚きで固まった身体を精一杯の優しさで包み込み、頭を撫でる。 「強く言い過ぎた。お願いだから泣くな」 「春樹さん……」 彼女は恐る恐る俺の背中に手を回し、ひ弱な力で俺に応えた。 ……おかしい。 これで涙は止まる筈なのに。 彼女は必死に声を殺しながら、背広を濡らし続ける。 「ごめ、なさ……わたしが聞きたいなんて、言わなければ……」 「話すと決めたのは俺だ」 彼女は何も悪くない。 誰が見ても瞭然な否は俺の方で、今与えている優しさも、更に彼女を苦しめるだけの矛盾でしかない。 ……そんな事は分かっていても、涙の前では全てが無力だ。
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