【9】黒から白は、生まれない

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自宅へと向かうエレベーターの中で、彼女に「俺の言ったことも全部、忘れて」と声を掛けた。 しかし彼女は視線を落とすだけで、何も言わない。 彼女は優しいから、俺に何かしてやれる事はないかと模索しているに違いない。 彼女に嫌われる以上にまずい結果になってしまった事に、配慮が足りなかったと後悔する。 しかし心の片隅に燻る「嬉しさ」は俺の正直な部分で、彼女に嫌われなかった事には正直かなり安堵していた。 自宅に着くと、各々の足は自然と自室へ向かう。 普段ならば、ここで直ぐに背広を脱ぎ、早々にバスルームへと向かうのだが 疲労感に包まれた身体は酷く気怠く、ベッドに腰を下ろしたまま、暫く動く事ができなかった。 ……これから、どうするか。 先程からそればかりを考えている筈なのに、一向に答えは纏まらない。
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