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「ちょ、ちょっと待て。つまり今、遠山はその子と一緒に住んでるのか?」
「そうだ」
「一度も手を出さずに?」
「敢闘賞モノだろ」
信じられない、とばかりに目を見開いた木崎は、やがて長く深い溜め息を一つつくと、額に手の甲を付いた。
そして俯き気味の片目から、真摯な眼差しを俺に向ける。
「その子は遠山のことをなんて呼んでるんだ?」
その一言で、俺は木崎が何を言いたいのか全てを理解した。
じわりと胸に広がる温もりに、口元が緩む。
「……『春樹さん』って、か細い声で呼ぶんだよ。可愛いだろ?」
俺の笑みを見届けた木崎は、目を細めて再びテーブルに突っ伏し「あー」と低い声を吐き出した。
「泣きそうだよ、ったく」
その言葉を聞いて、胸の温もりは熱に変わり、危うく木崎の心情が伝染しそうになった。
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